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高松地方裁判所 昭和38年(行)8号 判決 1964年3月12日

香川県観音寺市観音寺町七間橋通町

原告

曽根耕治

県 同市栄町

被告

観音寺税務署長

横田明義

右指定代理人高松法務局訟務部付検事

村重慶一

高松法務局訟務部第二課長

大坪定雄

大蔵事務官 内田敦見

大蔵事務官 佐坂英一

大蔵事務官 奥村富士雄

右当事者間の昭和三八年(行)第八号更正決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告は、「被告が昭和三十八年六月二十二日付でなした、原告の昭和三十六年度分再評価税の更正処分を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和二十二年二月二十日原告の先代曽根彦三郎の死亡により、その所有であつた別紙目録記載の二筆の宅地(以下本件宅地という)を相続により取得したものであるが、昭和三十五年十月二十四日本件宅地を訴外株式会社百十四銀行に対し代金五百万円で売渡し、同銀行より、同月二十五日に手附金として金百万円(後に売買代金に充当)、昭和三十六年一月二十六日に代金内入として金百五万円、同月三十一日にさらに内金として金百四十五万円、同年三月中に残代金百五十万円をそれぞれ受領し同年一月二十八日原告より右百十四銀行に対し売買に因る本件宅地所有権移転登記を了した。

二、そこで原告は資産再評価法に則り、昭和三十六年三月十五日被告に対し、本件宅地の再評価額の合計額を金六十二万七百九十円、再評価差額の合計額を金五十二万七千四百四十六円、再評価税額を金二万二千六百四十円とする再評価の申告をした。ところで、本件宅地上には、前記売買契約が成立した当時原告所有の建物が存在していたが、これは本件宅地を前記百十四銀行に引渡すに際し取毀しの上同年四月六日本件宅地上より撤去されたのであつて、そのためか被告観音寺税務署長は、右家屋相当額は再評価税の対象にならないものとして、昭和三十八年六月二十二日付をもつて、再評価額の合計額を金十九万千二百円、再評価差額の合計額を金十八万六千四百二十円、再評価税額を金二千百八十円とする更正処分をなし、同月二十九日原告に対しこれを通知した。

三、原告は、右更正処分を不服として、同年七月一日被告に対し異議の申立をしたが、被告は同月十二日、右更正処分は申告額を減額する利益な処分であるから、異議申立の対象とならないとして、右異議申立を却下する旨の決定をなした、そこで原告はさらに同月十九日高松国税局長に対し審査の請求をしたところ、同年九月九日付をもつて、原告の右審査請求を棄却する旨の裁決がなされ、同月十八日原告に対し右裁決書謄本が送達されたものである。

四、しかしなががら、資産再評価を前提とする個人所有の土地の譲渡の場合においては、先ず再評価額が決定され、これを基準として譲渡所得金額が決定されるべきものであり、再評価額に変更があれば、譲渡所得金額も変更されることになるのであつて、再評価額の多寡は、ひいては当該年度における原告の総所得金額の増減に関係があり、従つてまた所得額の如何に重大な影響を与えるものである。よつて不当に抵額な再評価額が決定されたときは、当然その取消を求めることが許さるべきであり、ことに原告の場合においては、本件宅地上に存在した前記家屋についても再評価をなすべきであつたのにもかかわらず、これを無視してなされた被告の本件更正処分は違法であるから、その取消しを求めるものである。

と陳述し、

証拠として、甲第一乃至第四号証を提出した。

被告指定代理人等は、本案前の申立として、主文と同旨の判決を求め、その理由として、

本訴において、原告が取消を求める被告の更正処分は、再評価額を減額し、ひいては原告に賦課さるべき再評価税額をも減額する処分であつて、なんら原告の権利ないしは法律上の利益を侵害するものではなく、従つて本件訴はその利益を欠くものとして、不適法である。かりに原告の主張するように、再評価額の多寡が原告の本件宅地の譲渡所得金額の決定に影響を与えるとしても、それはむしろ直接に右譲渡所得をも含めて当該年度における総所得金額の決定処分を争えば足るものである。

と陳述し、

本案につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告主張の請求原因事実第一ないし第三項は認めるが、その余の主張を争う。

と述べ、

甲号各証の成立を認めた。

理由

本訴が訴の利益を有するか否かについて判断するに、一般に行政処分の違法を理由にその取消しを訴求するためには、当該処分により自己の権利または法律上の利益が直接侵害されたものであることを要するところ、原告が本訴において取消しを求める被告観音寺税務署長の再評価税更正処分は、原告の主張によれば、原告がその所有にかかる本件宅地について資産再評価法に基づいてなした資産再評価の申告に対し、その再評価額を金六十二万七百九十円から金十九万千二百円に、再評価差額を金五十二万七千四百四十六円から金十八万六千四百二十円に、再評価税額を金二万二千六百四十円から金二千百八十円に減額したものであるというのである。かかる更正処分は、結果的あるいは間接的には、譲渡所得金額に影響し、ひいて原告の昭和三十六年度の所得金額ないしは所得税額に影響を及ぼし、これを多額ならしめることとなるであろうけれども、右更正処分それ自体としては資産再評価税額を大幅に減額したのであつて、換言すれば減額分について原告に再評価税納付義務がないことを宣言したものにすぎないから、右更正処分によつて原告の権利ないしは法律上の利益が直接に侵害されたものとはいえないこと明らかである。してみると、原告は右更正処分の取消しを求める法律上の利益を有しないものといわざるを得ない。(最高裁判所昭和三六年一二月一日第二小法廷判決、最高裁判所民事判例集第一五巻第一一号二六三七頁参照)

よつて原告の本訴請求は、訴の利益を欠く不適法なものとして却下すべく、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浮田茂男 裁判官 藤原弘道 裁判官 松永剛)

目録

(一) 香川県観音寺市観音寺町甲三千三百七十八番地の五

一、宅地 二十五坪

(二)、同所甲三千三百七十八番地の六

一、宅地 十六坪

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